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プライドマンス特集【後編】LGBTQ+の当事者として。アライとして。みんなでできること、考えたいこと。

アダストリアでは、日本最大規模のLGBTQイベント「レインボープライド」に参加したり、セクシュアル・マイノリティの人を理解・支援する「アライなお店」を目指して全国の店舗でレインボーフラッグを掲げたりと、LGBTQフレンドリー企業としてさまざまな取り組みを行っています。

本記事は、2023年6月にスタートする「アダストリア プライドマンス」特集の【後編】!セクシュアリティを隠さず自然と働くアダストリアの三浦大平さん(タイちゃん)と、トランスジェンダー俳優 として活躍する若林佑真さん(ワカちゃん)のふたりが繰り広げるクロストークの様子をお届けします。後編では、LGBTQ+の当事者として実際に体験したエピソードや、それを踏まえてふたりが感じている想い……当事者の人も、アライな人も、すべての人に届けたいお話ばかりです。


▶クロストーク【前編】はコチラからご覧いただけます。

震えながらのカミングアウト。
「どうでもいい」の一言に、愛を感じた。


三浦:LGBTQ+についていろんな話をしてきましたが、ワカちゃんは自分のセクシュアリティについて、初めて他人にカミングアウトしたとき のことって覚えていますか?

若林:僕は、自分のセクシュアリティを最初にカミングアウトしたのが親友でした。めちゃくちゃ悩んで、呼び出して、それでもなかなか切り出せなくて。1時間が過ぎてようやく決心して、身も心も震えながら「実は、心は男性なんだ」と打ち明けました。そしたら、その子の返事が「え?どうでもいいねんけど」だったんです。「どうでもいい」って、場合によってはネガティブに聞こえるかもしれないけど、その一言で片付けてくれたことに僕はとても愛を感じて。それが成功体験となって今の自分があるので、親友には本当に感謝しています。

三浦:僕がカミングアウトしたのは、社会人になってからでした。前職の話ですが、最初はずっと隠して働いていたんです。でも、思い切ってゲイだとカミングアウトしたら「え!?……うん、今更!?」みたいな反応が返ってきて(笑)。必死で隠しているつもりだったけど、みんなとっくに気づいて、僕がゲイであることを当たり前に受け入れていたんです。自分が思い込んでいるほど周りは不寛容じゃないとわかり、それからはもう、歩くカミングアウト(笑)。いろんなところで、いろんな人にオープンにできるようになりました。


若林:自分がいちばん、自分自身を差別していたってことですね。

三浦:そうなんです。

若林:いやでも、わかるわかる!僕も学生時代、ムダに「えー!あの男の人めっちゃカッコイイ!」とか言ってましたもん。もちろん、憧れているのは事実ですけど、恋愛的な意味はないのにそんな風に装ってみたり。バレたらやばい!シスジェンダーで異性愛者 だと思われないと!と、いつも必死でした。

三浦:今の職場でスタッフからカミングアウトされることもありますが、そのときは僕がされたときと同じように振る舞うようにしています。「そうだと思ってたよ!でも、だから何ってことはない、何も変わらないよ」みたいな。そういう空気は伝えるようにしています。もちろん、向こうから言ってこない限りは何も言いませんけどね。

若林:カミングアウトするかしないかを決めるのは本人だから、本人が言うまで何も言わないのはすごくいいですね。

三浦:そうそう、カミングアウトするのが偉いってことではないので、そこは自由ですよね。

接客での声かけ。
まずは「相手を知るため」の一言から。


三浦:僕がお客さまとして買い物に行ったとき、「デートに着ていく服を探していて」と話したら「これ絶対に女子ウケいいですよ」と言われたりするんです。あれは「うーん」となりますね。

若林:あ〜、なるね。

三浦:もちろん、女子ウケを求めている男性のお客さまは大勢いるので、そのセリフ自体が悪いわけじゃないです。でも、「もっと相手を知ろう?」と言いたくなりますね。その人が異性愛者とは限らないじゃないですか。

若林:向こうから「今度女の子とデート行くんです」って言われて初めて「女子ウケいいですよ」が成立しますよね。

三浦:そうそう。つい、自分の価値観で判断しちゃうんでしょうね。男性がデートと言えば女子ウケ!みたいな。でも、接客などの仕事に就いている人こそ、まずは自分の固定観念をなくして、「人には数え切れないほどのカテゴリがある」という前提を持って「目の前にいるお客さまがどんな人なのか」を知るための質問をしてほしいと思いますね。

利益よりも、お客さま。
その接客スタイルに感動して。


若林:以前、スーツが必要になって「流石にスーツは実際に着て買いたい」と、スーツ販売店に行ったんです。店員さんに「いちばん小さいサイズはどれですか?」と聞いて出してもらったんですけど、それでもサイズが合わなくて。でもその店員さん、いやな顔ひとつせず、真剣に、時間をかけて僕に合うスーツを探してくれたんですよ。「こちらの型の方がタイトなつくりになっているので、今度はこっちを着てみてください」って。

三浦:嬉しいですね。

若林:でも、どうしても裾上げや肩幅を詰めるなどの調整は必要で。となると、追加料金がかかるんですよ。そしたら店員さん、「お客さま、明日はご予定空いていますか?内緒なんですが、こちらのスーツは明日から20%オフになるんです。今日サイズを採寸して取り置きしておくので、明日買いに来てください」とこっそり教えてくれたんです。その場で僕が定価のまま買った方が売上げになるはずなのに、店員さんは利益より僕を優先してくれたことがとても嬉しくて。商品を渡す際に手紙まで添えてくれて……感動しましたね。今でも忘れられない接客です。

自分の固定観念を優先すると、
相手の気持ちが見えなくなっていく。


若林:逆に、グチりたくなる接客の思い出もありますよ!少し前にひとり でお店に入ってメンズ服を見ていたら「ご自分用ですか?」って聞かれて「はい」って返事したら「これ、女性でも着ている方が多いんですよ」って。

三浦:ああ〜!耳が痛い!

若林:そのときは「そうなんですか」って返したんですが、次のお店でも同じこと言われて!!「僕、今女性として見られてるんだ」って。その日は真冬で、ダウンを着てニット帽を被ってマスクをして、ヒゲも見えない状態ではあったんですけど、流石に二回も言われると……。

三浦:ああああ……!

若林:でも、明らかに女性に見える服装はしていなかったので、その店員さんが「世の中にはいろんな人がいる」って知っていたら「女性でも」ってセリフは出なかったと思うんですよ。何のために、あの言葉を使ったのだろう?という疑問があって。


三浦:……決してかばうわけではないですが、その販売員さんはきっと背中を押したかったんでしょうね。メンズ服の販売店に女性が入って、試着したりするのはハードルが高いだろうと思って出た言葉なんだと思います。ただ、「もっと相手を知ろう?」って話ですよね。

若林:その一言がトラウマになる人だっているかもですよね。もしかすると、トランスジェンダーの人が「自分は人からどう見られているんだろう」と悩みながら、それでも勇気を出して買いに来たのかもしれない。その可能性があることを、知ってほしいなと思います。


三浦:「女性でも〜」の前に、もうひとつ言葉がほしいですよね。例えば、「よくこういう服を着られるんですか?」と声をかけて「そうなんです。私、女性なんですけどメンズ服が好きで」って返ってきたら「そうなんですね!このアイテムは女性でも着ている方が多いんですよ」。これなら、同じセリフでもマルじゃないですか。

若林:めっちゃいいですね!

三浦:その人が「何をいいと思っているのか」「どんな目的で来たのか」を知らない段階で一歩踏み込んだ言葉をかけちゃうから、摩擦が生まれてしまうのかなと。もうひとつ手前の言葉があれば、決めつけとか、押しつけみたいな感覚もなくなると思うんですよ。

若林:うんうん!もっと間口を広げたところから話しかけてもらえたら、摩擦は起きないと思います。

世の中のジェンダーをなくすために、
「アライ」としてできること。してほしいこと。


三浦:僕はLGBTQ+の当事者でもあるし、「アライ」であることも心がけています。アライとは、セクシュアル・マイノリティの人を理解したい、支援したい人のこと。いろんな考え方があると思いますが、僕のスタンスは「その人個人を見る」。性別とか年齢とかそういうの一切関係なく、一人ひとりをしっかりと見て知っていけば、世の中のジェンダーに対する課題はなくなっていくはず。もちろんこれは、当事者である僕たち側にも言えることで。まずは全員がお互いを知るよう心がければ、いい方へ変わるきっかけになるんじゃないかなと。


若林:僕のアライは「フラットであること」。例えば、人に「コイツ若林佑真って言って、元女子なんですよ」って紹介されたりすると、すごく違和感を覚えるんです。だって、「この人○○って名前で、異性愛者なんですよ」とは言わないでしょ!?悪意がないのはわかっているんですよ。でも、マジョリティな人同士だと成立しない会話が、マイノリティな人だと成立しているのを感じると、性別の部分を特別視されているんだなと感じてしまうんですよね。 だから、フラット!


若林:そうやって対人関係はフラットでありながらも、その裏でLGBTQ+の共通の困りごとを想定して、解決への可能性を広げてくれたり、ときには一緒になって声をあげてくれると嬉しいなと思います。もしかするとワガママに聞こえるかも知れないのですが……例えば、外国人の方に対して、対人関係は国籍関係なくフラットでありながらも、「漢字が読めない」という困りごとを想定して、店内に英語表記を増やす、ということと同じだと思うんですよね。
「マイノリティの困りごと」を想定して、マジョリティの方が「思いやり」を増やしてくれると、「誰もが生きやすい社会」に、どんどん近づいていくんじゃないかと思います。


「LGBTQ × Shopping」研修動画
何も知らされていない当社のスタッフ2名が、セクシュアル・マイノリティの当事者の方4名を接客。その後、インタビューを通じてセクシュアル・マイノリティや多様性について学び、これまでの接客を振り返ります。そうして、アライ(セクシュアル・マイノリティの理解、応援者)な店舗・販売スタッフになるために、改めて「お客さまに寄り添う」ために、どのような心構えが大切であるかを考えるダイバーシティ研修動画です。

研修動画掲載先:https://youtu.be/b9Vf3PC-lO0


若林 佑真 (わかばやし ゆうま)
女性として生まれ、現在は男性として生活するトランスジェンダー男性の俳優 /舞台プロデューサー。1991年、大阪出身。同志社大学神学部在籍中から演技などのレッスンを受け、卒業を期に上京。俳優やラジオパーソナリティーの他、東京レインボープライド2016、2017ではステージパフォーマーとして出演し、脚本・プロデュースも担当。20歳からホルモン治療を開始。国内の病院にて、24歳で乳房切除・乳線摘出手術を受ける。
<出演作品>
テレビ東京 木ドラ『チェイサーゲーム』渡邊凛役
TBSラジオ『アシタノカレッジ』木曜アシスタント


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